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駿河に引っ込んでいたぶらぶら清兵衛さま

  • ryokurinken
  • 2017年3月23日
  • 読了時間: 3分

 青年、清兵衛さまがお初さまと深い仲になったのはたぶん16歳の時分でありましょう。初陣の興奮が醒めて、清兵衛さまは気持ちの落ち着きを求めたのでございましょうな。それが、当然と言えば当然のお初さまのご懐妊となるわけで・・・。

 懐妊が分かった時点で、さてどうするかという人生の岐路を清兵衛さまは考えたことでございましょう。迷っているうちに、お初さまのお腹はどんどん大きくなってまいります。まさか中条流などの怪しい手段に頼ることなど考えも及ばなかったことでございましょうなあ。まわりから「どうする?どうする?」と問われ、あやふやな結論を出すしか、まだ年若い清兵衛さまにはできなかったことでございましょう。

 とはいえ、生まれてきた男の子は可愛いものでございます。たとえ男には父親としての実感は今ひとつ乏しいものでありましょうが、女子ならば、実際にお腹を痛めたわが子という実感ははるかに強いものでございましょう。

 この世に生まれ落ちた幼い命には何の咎もございませぬ。暖かな母の乳を求めて泣く赤子には、誰も勝てないものでございます。それにしても17歳の井上清兵衛政重さまは、ここが思案のしどころでございます。

 私は、お初さまを蒲生の家に連なる切支丹の娘と考えましたが、もしそれが事実なら、清兵衛さまは大変な苦境に陥ったことになりまする。徳川の譜代の上に生まれ育ちながら、蒲生の側に寝返るかもしれない、家康公直々の御指名にもかかわらず、蒲生側に寝返るならば不忠者よ、裏切り者よ、とそしられて、徳川家中での立身出世の道はそこで絶たれてしまうのであります。17歳、18歳、19歳と歳を重ね、赤子が大きくなっていくにつれ、清兵衛さまの煩悶もまた大きくなっていくのであります。

 そのあたりの「渡る世間は鬼ばかり」的な記録は全く残っておりませぬ。ここでも講談師は見てきたような嘘をついているのでございますが、そんなややこしいごたごたがあっても何の不思議もございませぬ。

 お初さまのもとに清兵衛さまとのお子がおられたのか、どんな思いを抱いてお初さまが子どもを育てて行かれたのか、何の記録も残っていないのでございます。

 清兵衛さまの記録としては、遠州丹野村の永田太郎左衛門由著というものがございます。永田家と言うのは、清兵衛さまの母上のご実家でありまして、そこへ浪人した清兵衛さまが小者一人を召し連れてしばし暮らしていた、との記録がございました。ご浪人のぶらぶら清兵衛さまというわけでございます。

 母上からみれば「兄の正就は秀忠公の乳兄弟として順調に出世しているにも関わらず、次男の清兵衛政重は隠密として忍んだ先で、敵方の娘と情を通じ、子まで為してしまった出来の悪い息子じゃわいなあ」と深い嘆き節が聞こえてくるのでございます。

 愚かとはいえ、兄の伝手で秀忠公にお目見えして、なんとか番士のひとりに加えてもらった、というのが実際のところではなかったのでしょうか、と講談師は勝手に想像してしまうのでございます。

 
 
 

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